空港までは歩かない 後編
2020年9月18日に東京モノレールの昭和島駅から天空橋駅の区間を徒歩で巡った。今回は前回の後編である。
・前編はこちら
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1.穴守稲荷神社と稲荷橋
羽田可動橋がある大森から東糀谷を経由し羽田に入る。今や「空の玄関口」としてのイメージが先行するが、昔は漁業や穴守稲荷神社の門前町として栄えていたという。
かつて穴守稲荷神社は羽田の干拓地域(鈴木新田)に存在した羽田穴守町(海老取川東部)に鎮座していた。しかし戦後、GHQによって羽田空港(当時の羽田飛行場)を軍用として拡張、整備するとして強制退去を余儀なくされ、現在地に再建した歴史を持つ。
境内に入ると爽やかな風が吹いており汗で身体に張り付いたTシャツが膨らんだ。境内の奥には2020年の春に竣工した稲荷山が聳える。頂上には社が鎮座しているが階段を上がる体力が残されていなかった。再訪確定である。
穴守稲荷神社のほど近くを流れる海老取川に稲荷橋という名の橋が架かっている。名の通りかつての穴守稲荷神社に通じる参道の橋であったという。訪問時は防潮堤補強工事の拠点となっていた。橋の先は行き止まりになっておりどこか寂しい雰囲気であった。
2.天空橋と駅前地蔵尊
稲荷橋から海老取川沿いを歩くと天空橋という人道橋がある。かつて橋の近くには京浜急行電鉄の羽田空港駅が存在していた。しかし空港線の羽田駅(現天空橋駅)延伸により駅は廃止、駅跡は住宅と駐車場になっている。この天空橋はかつて旧羽田空港駅を利用していた近隣住民の羽田駅への通路として架けられたものだという。
この天空橋の近くには駅前地蔵尊という地蔵尊がある。その名の通りかつては旧羽田空港駅前にあり、延伸工事開始頃に現在の場所に移されたとされる。当時とは場所は違えども、この近辺に京浜急行電鉄の駅があったことを今に伝えている。
3.大鳥居と旧三町顕彰の碑
海老取川沿いを河口方面に歩き、弁天橋あたりで対岸に赤い大鳥居が見えてくる。この大鳥居はかつて羽田穴守町にあった穴守稲荷神社のものであり、強制退去後は空港駐車場に残されていた。その後、新滑走路建設に伴い現在の場所に移されたという。
社殿もない交差点近くの土地に大鳥居だけがあるのは不思議な光景であった。到着後間もなくジェット機の音がしたので空を見上げると日本航空機が離陸していた。
鳥居をあとにし東京モノレールの天空橋駅に向かう。駅の近くにはかつて羽田空港旧B滑走路が存在していたが沖合展開計画により移転、その跡地に羽田イノベーションシティという複合施設が2020年7月3日に先行開業した。ちょうど訪問日(2020年9月18日)が本開業日であったらしく賑わいを見せていた。
この複合施設前の広場に「旧三町顕彰の碑」がある。戦後、GHQによる48時間以内の強制退去を余儀なくされた干拓地域(鈴木新田)の羽田鈴木町、羽田穴守町、羽田江戸見町を今に伝える碑になっている。案内板には戦前観光地として賑わっていた様子や当時の住民の方の証言が記されていた。
突如として日常が奪われた歴史を感じ心苦しくなった。碑の真上を飛行機がひっきりなしに離陸していた。
2時間半の散策を終え天空橋駅から浜松町駅へ戻る。ちなみに天空橋駅から昭和島駅までモノレールでたったの4分であった。
空港までは歩かない(終)